本サイトはプロモーションを含みます
小説『箱男(安倍公房著)』についてです。
同名映画の原作です。
本記事では、
- なぜ5万円で箱を買おうとしたのか?
- 赤い文字の意味?
- ショパンの章はなにが言いたい?
- なぜお尻?
- 語り手は誰?
- 最後の意味(どうなった?)
- 全体の流れ
などについてどういう意味なのか考察し、「意味不明」を解消していきたいと思います。
【箱男】作品情報
作品名 | 『箱男』 |
---|---|
発売日 | 1973/3/30 |
出版社 | 新潮社 |
ページ数 | 248ページ |
作者 | 安倍公房 |
【箱男】簡単なあらすじ
Cは軍医殿の情報を借りて診療をしていた。
やがて軍医殿の変死体が発見される。
医者と彼女は、“箱”に執着をみせるが……一体なぜ?
箱を巡る様々なストーリー。
箱男たちがノートに連ねるそれは、事実か虚実か――?
誰が箱男で、誰が箱男になり損ねたのか――?
“匿名性”をとことん突き詰めた前代未聞の物語。
【箱男】主な登場人物
- 偽医者
……軍医殿の登録情報を借りて医者をしていた。 - 彼女
……戸山葉子。看護師見習い。 - 軍医殿
……戦時中、偽医者の上官だった。 - 箱男たち
……箱男たち。
【箱男】意味不明!どういう意味?考察・解説
考察1:なぜ5万円で箱を買おうとしたのか
箱を5万円で買おうとした理由は、
“偽医者が、人を手にかけた問われないため”
です。
軍医殿は偽医者の手にかけられました。何故なら、中途半端に文字が切れ、彼の意識は途絶えているからです。
偽医者は、実際の犯行前に供述書をしたため、箱男になる前から箱男になりきって日記をつけていました。
つまり、箱男になることで、法の裁きから逃れようとしたのです。
「(偽医者は)戻ってこないと思う」
と彼女が言ったのも、元々そういう作戦だからなのです。
箱を5万円で買おうとしたのは、罪に問われないためです。
考察2:「天性の殺され屋」とは?
「天性の殺され屋」というのは、「表沙汰にならない」という意味です。
決して「箱男は、自らの手でその生涯に幕を閉じたがっている」という意味ではありません。
何故なら、彼らは、もし被害に遭ったときのために遺書まで残そうとしています。
例えば、殺し屋のプロ=相手が誰でも秘密裏にやり遂げるということですが、
同様に、殺され屋のプロ=相手が誰でも秘密裏にやられるということです。
登録なしの身元不明の箱男が亡くなっても、警察は熱心に捜査しないからです。
作中、箱男の遺体にたいして「浮浪者が亡くなったのだろう」という具合に軽く片されています。
「その中身は誰なんだ?!」と詮索されることはありませんでした。
つまり、箱男は、社会に属する者たちにとって“理想のターゲット”という意味なのです。
「天性の殺され屋」の意味の意味は、箱男が手に掛けられても表沙汰にならないからです。
考察3:赤い文字の意味は?
赤い文字の意味は、「箱男が人生の履歴書を修正した」からだと思います。
箱男は1人ではありません。誰でもないし、誰でもあるのです。
例えば、日記の内容だったり筆記が変わったりして、「前の箱男は亡くなった」と臭わせる箇所が幾度かあります。
しかし、前述したような天性があるため、いずれも警察沙汰にはなっていません。
作中に「ノートが事実とは限らない」とありますね。それは、箱男たちが時には頭のなかで自由に会話したり、編集しているためなのです。
箱の中に裸の女性のポスターが貼ってあったと思いますが、恐らくそれを使って「裸体の看護師」の想像を膨らましていたのでしょう。
つまり、箱男が手直ししたのでしょう。
まるで赤ペン先生ですね。
赤い文字の意味は、箱男が自分の履歴書を修正した跡でした。
考察4:ショパンの章の意味
ショパンの章がなにを言いたいかといえば、社会では「才能<登録」である――という皮肉だと思います。
ショパンは素晴らしい画家として人気を誇っていました。が、正式に登録していなかったために偽物となりはてました。
一転、犯罪者となってしまったのです。
ショパンは、むしろ才能で喜びを与えていた人物だと思うのに、残念な結果となりました。
因みに、恐らく本物の父親は手に掛けられてしまった可能性が高いです。
豪勢な生活がしたい誰かの手によって。そのため箱から出てこられないのです。
最後、ショパンが涙を流したとき、父親は涙を拭ってくれます。
それは優しさからではありませんでした。
涙を流したら絵が台無しになってしまうからなのです。
そこに親子愛は感じられません。
ショパンの章の意味は、現在の社会では「才能<登録」だということを訴えています。
考察5:なぜお尻?
彼女がお尻のことしか言わなかったのは、彼が箱男だったから……だと思います。
想像の世界では裸でも、実際は腰から上は全部隠れていたのです。
草の上に座れば、表面が彼のお尻を撫でたかもしれません。
また、“彼女は本当は自分のことなど愛していないから”という深層心理も反映されているように思います。
お尻なら匿名性が高く、愛する人に置き換えられそうです。
同様に、エッチなシーンのときに語彙力が乏しかったのも、実際にそういう経験をしたことがないからでしょう。
頭のなかの彼女が自由に喋ってくれないのです。
なぜお尻だったのかといえば、彼は箱男にすぎなかったからです。
考察6:語り手は誰?
語り手は、最後の《……》の箱男だと思います。
何故なら、「医者」「ぼく」「A」「B」「C」……と何かしら名前がつけられている時点で第三者だからです。
つまり、それらは他人の出来事だといえます。
彼(最後の箱男)が自分を「偽箱男」と自称したのもそのためだったのだしょう。
汗をいっぱい欠いている彼はベテランではなく、箱男なりたてといえます。
何故なら、「箱男」は垢が肌に染み付いるため、中々汗を欠かないからです。(という説明がありました。)
語り手は最後の《……》の箱男でした。
考察7:最後どうなった?
語り手の箱男が亡くなった(または意識がなくなった)ため、物語は終わった――というオチだと思います。
理由としては、最後にサイレンが聞こえたのと、そのタイミングで物語が終了するためです。
これらは“語り手の箱男が露台から落下した”というメッセージとなっていますね。
彼は箱のなかで夢みていました。
夢のなかで彼女の部屋に入ったとき、彼は目を覚ましたのでしょう。
そして「彼女」を探すために踏み出しました。つまり露台から落下したのです。
この時点で、自立神経失調症の症状があったのかなと思います。
彼は、社会に居場所を見つけられず、箱男となった1人なのかもしれません。
最後の意味は、箱男(語り手)が落下し、意識が途絶えたため物語は終了しました。
【箱男】つまり、全体の流れは?
最後に、大まかな流れを整理したいと思います。
軍医殿を手に掛ける前に、供述書と日記を綴る。
偽医者と軍医殿の同意の元。
偽医者は空気銃を使い、
彼女は金を使った。
何人かの箱男は亡くなる。
が、結局亡くなっていないことになる。
(箱の内側の落書きやノートによって情報共有される)
箱男(語り手)が踏み出そうとしたが、
意識が途絶えて「箱男」の日記(物語)は終了する。
こうして、開幕のベルも聞かずに劇は終ったのです。
初読では、箱男が複数人いて意味不明……という方も多かったのでは?
わたしはその一人で、何度も読み返しました。
まさに「究極のデモグラシー」でした。
してやられました……(汗)。
このような作品に触れたのは初めてで、日本作家さんなのに海外の作品を読んでいるかのようでした。
そのため、なぜか偽医者と彼女は海外の人で脳内再生されていました(笑)
因みに正解はひとつでなく、色んな捉え方があるようです。ひとつの解釈としてお楽しみいただけたら幸いです。
【箱男】どういう意味?意味不明!解説まとめ
本記事では小説『箱男』について考察・解説してみました。
- なぜ5万円で箱を買おうとしたのか?……偽医者の犯罪を隠蔽しようとしたため。
- 赤い文字の意味?……箱男が“人生の履歴書を加筆した”から。
- ショパンの章はなにが言いたい?……社会では才能より登録が優先されるということ。
- なぜお尻?……箱男だったから・彼女は愛していなかったから。
- 語り手は誰?……《……》が語り手。
- 最後の意味(どうなった?)……最後、箱男は露台から落下した。
となりました。
読み返すほどに味わい深い作品でした。
映画化が楽しみですね。
では、またどこかの作品でお会いしましょう。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。